マツダの隠れた名車・ランティス。コンパクトなボディにV6を搭載した異端児、そのスポーティな走りの魅力とは?

みなさん、こんにちは!今回は、マツダがかつて生産していたコンパクトかつスポーティな4ドアセダン&5ドアハッチバック、ランティスをご紹介します。高剛性のボディに2リッターのV6エンジンを搭載し、独特のデザインと上質な走りで極めて高い評価を得ましたが、斬新すぎるデザインが当時受け入れられず、販売面では成功を収められませんでした。

生産終了から25年以上が経ち、国内の中古車市場でもあまり出回らなくなってきたマツダ・ランティス。今のマツダに通じる、志の高い設計・作り込みが魅力のランティスに、改めて迫っていきたいと思います。

一代限りで終わってしまった隠れた名車

マツダ・ランティスが販売されていたのは、1993年から1997年の約4年半の間。フルモデルチェンジは行われず、直接の後継車も存在しないため、一代限りで終わったモデルとなっています。ファミリアの一つ上のクラスとして設定され、コンパクトでスポーティなクルマとして誕生します。ボディタイプは、当時流行していた4ドアハードトップセダンと、スポーティな5ドアハッチバックの2種類が用意されていました。後者の5ドアハッチバックは「クーぺ」と名乗っていて、こちらの斬新かつ独特のデザインが印象に残っている方も多いのではないでしょうか。

クルマのサイズは全長4,245mm (クーペ)、 4,490mm (セダン)、全幅1,695mm、全高1,355mmで、クーペの全長はセダンに比べて約250mmも短くなっています。クーペのデザインを改めて見直すと、切り詰められたリアのオーバーハングが目立ちますね。もともとは別車種として開発されていたという経緯もあって、クーペとセダンは車名こそ同じですが、デザイン面での共通点はほとんどありません。

採用されたプラットフォームは「CBプラットフォーム」と呼ばれるもので、マツダ・ランティス専用に開発されたもの。マツダのミドルクラス用に開発された「Gプラットフォーム」の派生系で、日本の5ナンバー、つまり全幅1700mm以下という制約に合わせたプラットフォームになっています。

5ナンバーのまま、新衝突安全基準に対応

日本では、1996年に運輸省(現在の道路交通省)が「新衝突安全基準」が設定されましたが、ランティスはその安全基準に適合したクルマ第一号となりました。クルマが衝突した際にドアが開かなくなってしまうという事例が多く見受けられた時代に、ランティスは正面はもちろんのこと、後方や側方からの衝突にも対応し、「全方位の衝突からドライバーを守る」クルマとして、非常に高い評価を得ました。

また、この「新衝突安全基準」に5ナンバーのまま適合させたことも話題となりました。ランティスの発売前まで日本はバブル経済に沸いていたこともあり、クルマがどんどん3ナンバー化していく中で、ランティスは日常的な使い勝手を維持しつつ、コンパクトなボディで高い安全性をも確保したのです。

参考:マツダの隠れた名車・ランティス買取専門ページ!

こうした安全性の高いボディについて、例えばトヨタの「GOA」や日産の「ゾーンボディ」といった命名は与えられていませんでしたが、日本の他社勢に大きな影響を与えたことは間違いありません。マツダも、のちに自社基準の衝突安全ボディを「MAGMA」と名付け、日本のみならず欧州勢の高い衝突安全性、高いボディ剛性に対抗していくことになります。

贅沢な構成のV6エンジン

搭載されたエンジンは2種類で、どちらも自然吸気。1.8リッターの直列4気筒DOHC「BP-ZE型」と、2リッターのV型6気筒DOHC「KF-ZE型」が用意されました。1.8リッターエンジンは初代マツダ・ロードスターにも搭載されたエンジンで、自然なフィーリングが特徴。最高出力は130ps/6,500rpm、最大トルクは16kgf・m/4,500rpmを発生しました。

2リッターのV6エンジンは、振動を抑えるバランサーシャフトを搭載した贅沢かつ凝った構造をしており、他にも4ステージの可変共鳴過給システムVRIS、水冷式オイルクーラー、炭素鋼鍛造クランクシャフト、炭素鋼鍛造コンロッド、ピストン冷却用オイルジェット、中空カムシャフトなど、クルマの性質からは想像もできないほど高品位な構成となっています。エンジンブロックはアルミ合金製(メインベアリングキャップとシリンダライナーのみ鋳鉄製)で、エンジンの幅や高さを抑えるためにDOHCのカム間の駆動を歯車式としています。

このエンジンは、ランティスに採用される前にすでにクロノスに搭載されていましたが、ランティスに搭載する際に吸排気系の見直しが行われ、最高出力が10ps引き上げられました(最大トルクはそのまま)。エンジンのスペックは、最高出力170ps/7,000rpm、最大トルク18.3kgf・m/5,500rpmとなっています。

当時も、そして中古車市場でも、このV6エンジンを搭載したグレード「タイプR」の人気は非常に高く、その秘密は高回転までストレスなく滑らかに吹け上がる回転フィーリングにあります。ロータリーエンジン並み、とまではいかないものの、そのスムーズなエンジン特性は多くのドライバーを虜にしました。

5速マニュアルにはロッド式を採用

組み合わされるトランスミッションは、5速マニュアルと4速オートマチック。しかし、このトランスミッションにも工夫があります。4速オートマチックは変速時のエンジントルクなどをコントロールする電子制御式。そして、5速マニュアルには通常のワイヤー式ではなく、ダイレクトな操作感を得られるロッド式をわざわざ採用していました。このマニュアルミッションのフィーリングは高く評価され、中古車市場でも「クーぺ・タイプR・マニュアル車」は非常に人気があります。

また、今では珍しくなくなってしまいましたが、ランティスのランニングプロトタイプと最終試作車の開発ではニュルブルクリンクでの走り込みを実施。駆動方式はFFで、かつ同排気量の直列エンジンよりも重いV6エンジンを載せているにも関わらず、アンダーステアをほとんど感じさせない優れたハンドリングを実現しています。

高剛性のボディを得たことで、「タイプR」ではこのクラスでは珍しい16インチホイール、50扁平タイヤを装備しても、足回りはそれに負けることなく安定した乗り心地、操縦性を実現。ロングツーリングでも疲れ知らずの快適性をも確保しています。

ランティスは、室内の居住性にも抜かりはありません。タイヤを四隅に配置することで、ホイールベースは2605mmを確保。FFレイアウトの利点を生かして、室内空間は見た目よりも十分に確保され、後席の居住性も良好でした。デザインの妙であまり気付きませんが、全高は1,355mmとなっていて、天井高も低くはなく、長距離ツーリングでも疲れにくい移動空間を実現しています。

レースでは期待された戦績を残せず

ランティスは、当時盛り上がっていた全日本ツーリングカー選手権(JTCC)への参戦も強く意識したモデルでした。他社勢が直列4気筒エンジンで参戦を表明する中、唯一のV6エンジン搭載車だったランティスは有利、と見られていたのです。ところが蓋を開けてみると、重いV6が仇となり、ランティスは一勝もあげることなく、より軽量で直列4気筒を搭載したファミリアにバトンタッチすることになってしまいます。

しかし、ランティスのスポーツイメージは強く、マツダスピードから多くのパーツ類が販売され、カスタマイズして楽しむファンも多く存在しました。特に、リアのハッチバックからリアエンドにかけて覆うように装着するリアスポイラーは強烈な存在感を誇り、その形状から通称「大鳥居」などと呼ばれていました。ラリーで活躍した名車、フォード・エスコートRSコスワースにも、同じような巨大なリアスポイラーが装着されていましたね!

バブル崩壊後、全日本ツーリングカー選手権で期待された戦績も残せず、マツダの多チャンネル販売体制も失敗、1996年にはマツダはフォードの傘下に入る…といった逆風の中で販売されていた隠れた名車・ランティス。その志の高い設計、つまり走行性能・居住性・安全性を高いレベルで磨き上げてかつ運転して楽しい、というクルマ作りは、今のマツダにも脈々と受け継がれています。中古車市場でもなかなか見かけないクルマとなってしまいましたが、これからもその独特の個性で、人々の記憶に残っていく一台となっていくことでしょう。

[ライター/守屋健]