かつてのスズキのフラッグシップセダン「キザシ」!ヨーロッパ車のような乗り味の希少なセダンを再評価する

みなさん、こんにちは!今回は、かつてスズキのフラッグシップセダンとして生産されていた「キザシ」について紹介します。高い完成度を誇りながら、受注生産のみということもあり、結局3,400台ほどしか作られなかった悲運のクルマです。そのうちの約4分の1が警察に納入されたということもあって、「キザシを見たらパトカーと思え」なんてことも言われていました。

ところが、今改めて振り返ってみると、「シンプルな内外装で、走行性能や静粛性が高いセダン」を探している人にとっては、このキザシほど合うクルマはないのでは?と思うほど、しみじみといいクルマなのです。今回は、そんなキザシの魅力にじっくりと迫っていきたいと思います。

一代限りで終わってしまった、悲運のフラッグシップ

スズキ・キザシの名前がはじめて登場したのは、2007年のフランクフルト・モーターショーでのことでした。その名も「コンセプト・キザシ」で、スタイルもセダンではなく、ハッチバックとワゴンをクロスオーバーさせたようなデザインでした。同じ年の東京モーターショーには「コンセプト・キザシ2」が出展されたものの、こちらは車高が上げられたクロスオーバーSUVテイストのエクステリアデザインとなっていました。

2008年のニューヨーク国際オートショーで「コンセプト・キザシ3」が発表され、ここでようやく現在のセダンスタイルに落ち着きます。エクステリアデザインの方向性はこの時点でほとんど完成し、量産車を思わせる筋肉質な張りのあるデザインとなっていました。その約1年後の2009年の7月末に量産型「キザシ」がアメリカでデビュー。日本へはその約3ヶ月後の10月21日から、完全受注生産という形態で販売を開始。その後、ヨーロッパや中国での販売もスタートしますが、スズキはアメリカ市場から撤退することになり、日本、中国、ヨーロッパが主な販売先でした。

キザシは、スズキの史上初めてのアッパーミドルクラスのセダンで、ヨーロッパではDセグメントに分類されていました。中国向けモデル以外は、すべて静岡県のスズキ相良工場で生産され、各地に納入されています。

キザシは結局、モデルライフの中で一度もモデルチェンジやマイナーチェンジが行われないまま、2015年10月に生産終了、12月に販売終了となりました。日本国内の登録台数は2016年4月の段階でわずかに3,379台という、スズキのラインナップでは珍しい、生まれながらの希少車と言えるでしょう。また、後継車は登場せず、一代限りで姿を完全に消してしまいます。

オーソドックスなスタイルのセダン


出典元:ウィキメディア

キザシは、今時珍しいほど、オーセンティックかつオーソドックスなスタイルの4ドアセダンです。もともと、アメリカ市場でのホンダ・アコードやトヨタ・カムリの対抗馬として開発されたDセグメントのセダンですが、ボディサイズは全長4,620mm、全幅1,820mmとライバルに比べればコンパクトなボディサイズに収まっています。

エクステリアデザインは、近年よく見られるシャープなラインや奇抜なディティールは一切存在せず、筋肉質でシンプル、かつてのヨーロッパ車を思わせるデザインでうまくまとめられています。最近の日本車のデザインはちょっと…という方には、かなり響くデザインではないでしょうか。

惜しむらくは、完全受注生産にも関わらず、日本で選択できたのはシルバー、ホワイト、ブラックのみだったということ。ブルーやレッド、それにスズキ・スポーツのイメージカラー、イエローがあれば、キザシのイメージはまた違ったものになっていたかもしれません。

定員は5名。かなり絞り込んだスポーティなキャビンデザインのため、室内はあまり広くはありません。コクピット周りのデザインも、フラッグシップを名乗るモデルとしてはよく言えばシンプル、悪く言えば高級感や色気に欠けると言えるでしょう。こちらも、近年の奇抜なコクピットデザインが気に入らない、という方には新鮮に感じられるポイントかもしれませんね。

参考:スズキのフラッグシップセダン「キザシ」買取専門ページ!

シンプルかつ上質なインテリア


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メーターはシンプルな2眼式で、書体もごくオーソドックス、目盛りも細かくてかなりクラシカルな雰囲気です。とは言え、本革製、かつダブルステッチまで施されたパワーシートや左右独立式のオートエアコンなど、装備面での抜かりはありません。何より、変にメッキパーツなどの加飾で高級感を出すのではなく、造形と質感、全体のデザインと仕立ての良さで高級感を出している点は、スズキらしい潔さと言えるでしょう。

搭載されているエンジンは、エスクードに搭載されていた自然吸気直立4気筒2.4リッターDOHCのオールアルミ製エンジンで、もともと166psを発生していたところをさらに大幅改良・チューンアップして採用。最高出力は188ps、最大トルクは240Nmとなっています。車重は1.5トン前後に収まっているので、動力性能は十分にパワフルと言えるでしょう。

駆動方式はFFと四輪駆動の2種類。FFモデルではフラッグシップらしく、きちんと振動に対する対策が取られ、優れた乗り心地を実現していました。また、スズキではこのサイズのシャシーを持つモデルが存在しなかったため、プラットフォーム自体を新規に設計しています。そんな贅沢な作りにも関わらず、新車販売価格はFF車で280万円だったのですから、かなりの大バーゲン価格と言ってよいでしょう。

組み合わせられるトランスミッションは、日本向けはすべてCVTで、パドルシフトを採用することでスポーティな走りにも対応。日本国外向けモデルには6速マニュアルトランスミッションも用意されていました。キザシの6速マニュアルが日本でも販売されていたら、歴史に名を残すスポーツセダンになっていたかもしれませんね!

ちなみにガソリンエンジン車だけでなく、ゼネラルモーターズとの共同開発によるハイブリッドモデルも企画されていましたが、スズキのアメリカ撤退に併せて、こちらのモデルが開発されることはありませんでした。

ヨーロッパ車を思わせる身のこなし


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新しいプラットフォームに併せて新規開発されたサスペンションは、フロントがストラットで、リアがマルチリンクと凝ったもの。高いボディ剛性と、よく動く足の組み合わせで、ヨーロッパ車を思わせる良好な乗り心地とハンドリングを実現しています。

大きな段差に出くわしても、ボディが揺さぶられることはなく、ショックアブソーバーがうまく衝撃を吸収。ハンドリング自体もスポーティ一辺倒ではなく、ある種のおおらかさを持ち合わせているあたりは、さすがヨーロッパでの走り込みで鍛えた足回りと言えます。最近のあまりに過敏なハンドリングに慣れている人にとっては、キザシのハンドリングは「スポーティなのに安定感がある」とても魅力的なものに感じることでしょう。

また、FFにも関わらず、静粛性が高いのもポイントの一つ。スズキはこのクラスを作ったのは初めてのはずですが、室内空間の静けさはかなりのもので、長距離運転時の疲労を軽減してくれるでしょう。

そんなドライブフィーリングを踏まえると、キザシのライバルはドイツのセダン御三家、つまりBMW・3シリーズ、アウディ・A4、メルセデス・ベンツ・Cクラスあたりと言えるのかもしれません。それらのモデルに比べてとりわけ大きい欠点はないものの、あえて挙げるとすれば「突出した個性と、歴史がない」ということなのかもしれません。

ドイツ車たちはそれぞれに長い歴史もありますし、各々のモデルにもブランド自体にも明確なキャラクターが存在します。キザシはスズキにおけるDセグメントセダンのまさに一作目で、何代にも渡って磨かれていくはずだったのかもしれませんが、残念ながらそうした未来は訪れませんでした。

まとめ

国内の中古車市場では100万円から150万円ほどで、まだまだこれからも一緒に長く過ごしていけそうなキザシが10台前後流通しています。今後はますます数が減っていくかもしれませんが、まだまだ忘れ去るには早すぎる名車と断言してしまいましょう。これから先、スズキからこうしたセダンが登場する可能性についてはなんとも言えませんが、生産終了からまだ5年も経っていないキザシに乗ってみるのも一興かもしれませんね。それでは、また次回の記事でお会いしましょう!

[ライター/守屋健]